元気象予報士の田中義男です。
日当たりのいい窓辺に置いた胡蝶蘭が、冬に葉を透けさせたり、つぼみを落としたりする話をよく耳にします。
昼はあれほど暖かいのに、なぜ傷むのか。
原因の多くは昼の寒さではなく、夜の窓辺の冷え込みです。
この記事では、夜は15℃を保ち、10℃以下は避けるという冬の基準と、天気予報で危ない夜を先読みする方法、今夜からできる寒さ対策をお伝えします。
胡蝶蘭が冬に耐えられる最低温度の目安
適温は18〜25℃、冬の最低ラインは15℃
胡蝶蘭は熱帯の植物で、生育に向く温度は18〜25℃とされています。
冬は最低でも15℃以上を保つのが理想で、10℃を下回る場所では株が急速に弱ります。
胡蝶蘭を専門に育てる農家の宮川洋蘭さんが、胡蝶蘭の冬越しの解説で挙げている数字です。
| 夜間の温度 | 株の状態 |
|---|---|
| 18℃以上 | 冬でも安定して過ごせる |
| 15℃前後 | 冬の最低ラインの目安 |
| 10℃以下 | 急速に弱り、葉が黄色くなって落ちることもある |
私は秋の温室で、花芽を促すために夜温を15〜18℃まで下げます。
これは温室を理想の微気候にする5つの法則で書いたとおり、意図的に涼しさを作る作業です。
冬は目的が逆で、夜の温度を15℃より下に落とさないことが仕事になります。
寒さで傷んだときのサイン
寒さにやられた株は、葉の一部がブヨブヨになったり、半透明に透けたりします。
開花中の株なら、花がしおれる、つぼみが落ちるといった形で出ることもあります。
冬に葉が黄色くなる原因は、寒さのほかに根腐れもあります。
見分けるなら水苔を触ってください。
水苔が湿っているのに黄色くなっていれば根腐れを疑い、乾いているのに透けているなら寒さを疑います。
危ないのは室温ではなく夜の窓辺
昼は特等席なのに、夜は一転して冷える
冬の胡蝶蘭は、光を求めて窓辺に置かれがちです。
ただ、世界らん展のファレノプシスの育て方にも、日当たりのよい窓辺は夜間に冷気にさらされるため注意が必要だと書かれています。
先ほどの宮川洋蘭さんの解説では、夜の窓辺に置いたままだと、数時間で低温障害を受けるおそれがあるとされています。
室内がエアコンで暖かくても、窓の内側には別の空気があります。
部屋の温度計が20℃を指していても、株のいる場所の温度はそれと同じとは限りません。
晴れて風の弱い夜ほど、窓の外は冷える
窓の外の冷え込みを左右するのが、天気予報でおなじみの放射冷却です。
気象庁の放射冷却の解説によると、地面が熱を空へ逃がして冷え、近くの空気も冷やされる現象です。
雲がなければ熱は遮られずに逃げていき、風が弱ければ冷えた空気が周りと混ざらないため、晴れて風の弱い夜に冷え込みが強まります。
雲が薄い布団の役目をしてくれる曇りの夜は、同じ気温予報でも冷え方が穏やかです。
窓ガラスは、この外の冷えた空気に一晩じゅうさらされます。
天気予報で危ない夜を先読みする
夜の対策は、前日の夕方に予報を見て決めると失敗しません。
私が見ている目安は次のとおりです。
- 夜が晴れで風が弱い予報の日は、いつもより冷え込むと考える
- 暖房を切って寝る日に、予報の最低気温が一桁なら窓辺から必ず離す
- 曇りや雨の夜、風がある夜は、冷え込みが弱まるので少し余裕がある
予報の最低気温は、あくまで屋外の値です。
それでも、外が冷える日は窓辺も確実に冷えるので、判断の材料としては十分に使えます。
足元にたまる冷気に気をつける
窓辺には、もう一つ厄介な現象があります。
YKK APの窓と冷気の解説によると、窓で冷やされた空気は下へ流れて床に広がり、冬は天井付近と足元で5度以上の差が出ることもあるそうです。
冷たい空気は重いので、低い位置にたまります。
窓の下の床や、低い棚に置いた鉢は、部屋の中でもとくに条件が悪い場所です。
気象の言葉でいえば、部屋の中に小さな冷気の池ができている状態です。
今夜からできる夜の寒さ対策
日中は窓辺、夜は部屋の中央へ
冬の光は貴重なので、窓辺を使うのは日が差している昼前後の数時間に絞ります。
夕方に日が傾いたら、窓から離して部屋の中央寄りへ移します。
毎日の移動が面倒なら、台の上に載せて床の冷気から浮かせるだけでも違います。
置き場所ごとの夜のリスクを、表にまとめます。
| 置き場所 | 夜のリスク | 対処 |
|---|---|---|
| 窓辺 | 高い。外の冷気とガラスで冷えた空気が来る | 夜は離す |
| 窓の下、床への直置き | 高い。冷気がたまる | 台に載せる |
| 部屋の中央 | 低め | 夜の基本の置き場所 |
| 暖房の風が当たる場所 | 寒さより乾燥が問題 | 風向きから外す |
簡易温室で冷気を遮る
暖房を切る夜や、留守にする日は、鉢を覆っておくと安心です。
宮川洋蘭さんは、発泡スチロールの箱、段ボール、透明なビニール袋などで覆う簡易温室を勧めています。
冷気を遮り、鉢の中の温度が下がるスピードを緩めてくれます。
ただし、覆ったまま朝を迎えると、日が当たったときに中が蒸れます。
朝になったら外すところまでを、夜の作業として決めておいてください。
温度計は株の高さで測る
部屋の温度計は、胡蝶蘭の環境を映していません。
最高最低温度計を鉢のすぐ横、葉の高さに置いて、朝に最低値を見てください。
私も毎冬これを続けていますが、窓辺と部屋の中央に一晩ずつ置くと、差ははっきり出ます。
一度自分の部屋で測っておけば、以降は「ここは夜だけ危ない」と数字で判断できるようになります。
測った最低値が15℃を割っているなら、置き場所か覆い方を見直すサインです。
暖房を切る職場や店舗の夜は
お祝いで届いた鉢を職場や店舗に飾っている方は、とくに注意してください。
冬の夜や休日は暖房が止まり、室温が外気に近づいていきます。
しかも受付やエントランスは、大きなガラス面のそばに置かれがちです。
暖房が切れる日は、帰る前に鉢をガラスから離し、台に載せて簡易温室で覆ってください。
連休の前は、休み明けに最低値を確認できるよう、温度計を横に置いていくと状況が分かります。
寒さで傷んだ株を見つけたら
葉が透けたり、ブヨブヨになったりしているのを見つけたら、まず暖かい場所へ移します。
その状態で水やりをすると根まで傷めるので、水苔が乾くまでは様子を見てください。
傷んだ部分は元に戻らないので、被害を広げないことが目標です。
春に気温が安定するまでは、水やりを控えめにして、温度の安定を最優先にしてあげてください。
冬の水やりで寒さの被害を広げない
低温で水苔が湿っていると根が傷む
根腐れは水のやりすぎだけが原因ではなく、低温でも起こります。
宮川洋蘭さんによると、冷えた状態で水苔が湿り続けると根の活動が止まり、水を吸えなくなって鉢の中が酸欠になるそうです。
冬は、水苔が乾いて鉢が軽くなってから、さらに数日待つくらいで構いません。
夏の感覚で表面が乾いたらすぐ水をやると、寒さと過湿が重なって株を傷めます。
水やりは暖かい日の昼前後に、常温の水で
水やりは、気温が上がる10〜14時ごろの暖かい時間帯に行います。
夕方や夜にやると水が冷えて根が冷え込み、寒さの害を受けやすくなります。
水は水道から出したままの常温で、受け皿にたまった水はすぐに捨てます。
暖房のある部屋では、風が直接当たらない場所に置き、湿度を50%以上に保つのが目安とされています。
湿度の管理そのものは湿度管理の極意の記事で詳しく書いているので、そちらも参考にしてください。
まとめ
胡蝶蘭の冬越しは、夜の温度を15℃以上に保つことが基本で、10℃を下回ると株が急速に弱ります。
危ないのは昼の部屋の温度ではなく、晴れて風の弱い夜に冷え込む窓辺と、その足元にたまる冷気です。
今夜からできるのは、夕方に窓辺から離すこと、暖房を切る夜は簡易温室で覆うこと、鉢の横に最高最低温度計を置くことです。
水やりは暖かい日の昼前後に、水苔が乾いてからさらに数日待って行ってください。
元気象屋としては、冬の胡蝶蘭を守る一番の道具は、断熱材でも加温器でもなく、夕方に見る天気予報だと思っています。
今夜の予報を見て、鉢を一歩、窓から遠ざけてあげてください。